日本共産党茨城北部地区委員会                                   

 百里基地の危険な実態  (松原日出夫著「百里物語」より)

 注:文中の「今年」は、1994年です。

県民の平和のねがいに逆行して主力の戦闘機を増強 偵察飛行隊も30機へ

 昨年来、航空自衛隊百里基地のある小川町で、「地域の活性化のために百里基地を民間空港と共用化したい」「いや、とんでもない。これ以上の騒音はごめんだ」と、百里基地の「民間共用化」問題をめぐって、賛否両論が活発になっています。
 ところが県は、「地元から要望があった」を口実にして、待っていましたとばかりに昨年10月、8600万円もの百里基地民間共用化調査費を計上しました。調査内容は、「民間共用化」の条件や可能性を徹底して追求しようというもので、今年3月までをメドに、専門のコンサルタント会社に依頼をしています。
 そして、さらに1994年度予算では「共用化構想の具体化調査」ということで、3740万円の調査費を組んでいます。地元には強い反対の声があるにもかかわらず、それには“貸す耳もたぬ”といったスピードと力の入れようです。
 百里基地は戦闘機の実戦基地です。したがって、ここでは、いつでもいかなる場合でも、軍事優先が貫かれています。ですから「民間共用化」を考える場合には、まず基地の実態と、それが県民の平和、くらしの安全と、どういうふうにかかわっているのかを、調査・検討をしなければならないはずです。
 それを抜きにして、立地や空域、空港施設の調査・計画などで「共用化」推進に突っ走る県の態度は、県民不在といわざるを得ません。
 そこで、百里基地に新たな関心の目が向けられているいま、百里基地がどういう基地になっているのか、最近の動きに焦点を当てて、それが県民にとっていかに危険なものであるかを、明らかにしてみたいと思います。
 まず注目しなければならないのは、この基地の主力部隊である戦闘機の飛行隊の増強です。
 百里基地には、第七航空団の二つの飛行隊が常駐しています。機種は最初に配備されたF104JからF4ファントムへと、そして昨年の8月には、すべての戦闘機が、新銃のF15へと配備替えが完了しています。機数もそれまでの1飛行隊18機編成から22機編成へと増やされています。ですから、2飛行隊ともF15戦闘機に、そして36機から44機へと、その戦力が大きく増強されているのです。
 もう一つ百里基地に常駐している飛行隊があります。偵察航空隊の飛行隊です。この飛行隊も、これまでの14機(92年に福島に墜落して13機となった)編成から、17機も増やして30機に増強するという計画が進められているのです。
 偵察機だからといって軽くみるわけにはいきません。機種はRF4Eというファントム機で、その任務は「陸上、海上の情報(写真)を戦闘部隊に迅速に伝える」というものですから、航空戦闘だけでなく、陸上、海上の作戦にとっても欠くことのできない部隊なのです。
 そのうえ、全国にただ一つしかない飛行隊なので、航空総隊司令部(航空自衛隊の実戦部隊の総元締め)直轄の下におかれ、全国各地はもとより、他国の領海近くまで行動しています。
 このように、百里基地には、戦闘機の2飛行隊と偵察機の飛行隊、合わせて3飛行隊が配備されています。他の航空自衛隊の戦闘機基地は、2飛行隊配備ですから、このことだけでも百里基地は全国一の規模をもっているといえます。
 しかも、県民の平和、軍備の縮小の願いに逆行して、3飛行隊すべてが、その戦力を量・質ともに増強しているのです。

   ※ 百里基地の飛行隊の指揮命令系統
     ┌―         ┌―
  航空 ├―         ├― 第七航空団(百里)
  総隊 ├― 中部航空方面隊―├― 
     ├―         └―
     └―――――――――――― 偵察航空隊(百里)

頭上でミサイル迎撃戦の危険が  百里に基地防空隊 阿見にはパトリオット

 百里基地の動きのなかで、もう一つ注意しておかなければならないのは、昨年、新たに「基地防空隊」が配備されたことです。第401基地防空隊といいます。
 その名のとおり、この部隊は短距離地対空ミサイル、携帯用地対空ミサイル、バルカン防空システムなどを装備して、基地に近付く空からの攻撃に、地上から反撃して、基地を防衛するのが任務だといわれています。わかりやすくいえば、百里基地に近付く敵の飛行機やミサイルを撃ち落とす部隊なのです。
 防空が任務といっても、それは百里基地から出撃する戦闘機や偵察機の部隊が、後顧の憂いなく戦えるようにするための防空ですから、これも百里基地の戦力アップと言えるでしょう。
 百里基地が発行している基地新聞「百里」は、昨年行われた自衛隊の統合演習(陸・海・空九万余人が参加)に、百里基地から参加した部隊の成果を紹介していますが、その中で基地防空隊については、「新生401基防隊は、関係部隊からの情報をもとに基地防空に活躍。全機撃墜の成果をおさめた」と得意気に伝えています。
 しかし、こんな戦闘が実際におこなわれたら大変なことです。この部隊の迎撃戦闘は、基地周辺に住んで

図1 円内は短距離地対空ミサイルの射程距離(百里基地から約7キロメートル)

図2 円内はパトリオットの有効射程距離(阿見基地から70キロメートル)
いる人たちの頭上でおこなわれるのですから……。
 基地防空隊が装備している短距離地対空ミサイルの射程距離は、7キロメートルといわれているものですから、図1のように小川町はすっぽり、鉾田町、玉造町はもとより、他の周辺町村の一部にもまたがる地域が、その危険の下にさらされることになります。

 基地防空隊のミサイルは基地周辺の上空に網を張っているのですが、茨城の広大な上空には、パトリオットによる迎撃の網が張られているのをご存じでしょうか−−。
 阿見の基地(航空自衛隊霞ヶ浦駐屯地)に、このパトリオットが配備されているのです。
 阿見基地には、これまでナイキという地対空ミサイルが配備されていましたが、これも昨年、ナイキからパトリオットに配備替えがされたのです。先の湾岸戦争で米軍が使って威力を発揮した、性能の高いあの地対空ミサイルです。射程距離も大きく、有効射程で70キロもあり、湾岸戦争では20〜30キロのところでイラクのミサイルをほとんど撃ち落としたといわれています。
 半径30キロでも県南・県西地帯のほとんどが、70キロだと県北の一部を除く茨城県全体、千葉、埼玉のかなりの広い地域と、栃木県の一部にもまたがる広大な空が、有効射程の中に入ります。(図2)

 「頭上でミサイルによる迎撃戦が−−」、そういう危険性が秘められた空の下で、私たち県民は、毎日生活しているのです。
 多くの県民が知らぬ間に、こうした危険な部隊やミサイルの配備がすすめられているのですから、このことを一人でも多くの人に知らせて、「百里基地の増強やめよ、危険なミサイルは撤去せよ」の世論を広げることが、いま大事になっていると思います。

事故原因はひたかくし 「騒音へらせ」に耳かさぬ軍事優先

 これまで2回にわたって、百里基地が戦争の準備にむかって増強されている危険な実態を明らかにしてきましたが、では、それが平時には、どんな被害と危険を県民にもたらしているでしょうか。
 数年前、百里基地内でサイドワインダー(戦闘機に装着する空対空ミサイル)の暴発事故がありました。このときは、大事には至りませんでしたが、このミサイルは赤外線を追尾するものですから「まかり間違えれば、飛行機でも、自動車でも追尾して爆破したかもしれない−−」というショッキングな報道がされました。
 また、一昨年、百里基地の偵察機が福島県に墜落しました。この事故についても、百里基地反対同盟や平和・民主団体が「事故の原因を明らかにせよ」と再三要求してきましたが、いまだに事故の原因は明確にされていません。
 基地の近くに住む人たちは「基地内で科学消防車などが、慌ただしく走り回る光景をしばしば目撃しているが、それがどんな事故であったのか、どんな事故のおそれがあったのかは、いっさい、つんば桟敷におかれている」と不安顔に話しています。
 百里基地の増強は、こうした事故の危険性をもいっそう大きくしています。
 百里基地が、周辺住民に耐えがたい苦痛を与えているのは、なんといっても騒音です。胃袋から腸の中まで揺すぶられる轟音は想像を絶するものです。しかも、それが毎日毎日のことですから探刻です。会話・電話・テレビが中断されることはもちろん、健康への影響が心配です。「せめて、お経をあげている間ぐらいは静かにしてもらいたい」葬儀のときに遺族の口からでる言葉は、怒りをこえて悲痛です。
 百里基地反対同盟では、騒音についても繰り返し抗議をしていますし、また、地元小川町議会の基地対策委員会でも「早朝、夜間、昼休み時の飛行を自粛するように」と基地に申し入れていますが、いっこうに改善されている様子はありません。


●印は県が騒音を測定した地点
 それどころか「最近は飛行の頻度も、早朝・夜間の飛行も多くなっている」と基地周辺の人たちは口を揃えています。
 県は、3年前から百里基地の周辺で、騒音の測定を始めました。国の方針で(県の担当者がそういっている)重い腰を上げたようです。しかし、図(平成四年度の測定地点を示した)でもわかるように、もっとも騎音の激しい滑走路の延長線上の小川町の上合・倉数などをはじめ、鉾田町、茨城町、玉造町などの広い地域が、ほとんどこの測定から除外されているのです。それでも、国の定めた「環境基準」をオーバーする騒音が、3地点で測定されています。
 県は、この結果に基いて、「……指定地域の一部において『航空機騒音に係わる環境基準』が達成されていない状況にあります。つきましては『環境基準』の早期達成に向けて、所用の対策を積極的に推進されますよう特段のご配慮をお願い申し上げます」という文書を、防衛施設庁と百里基地に提出しているだけです。
 これでは基地周辺の人たちが、「測定地点といい、申し入れの文書といい、まったくのおざなりだ。県は俺たちの苦しみを何と考えているんだ」と、県に対する不信をつのらせるのは当然です。
 百里基地に戦闘機が配備されてから、間もなく30年にもなろうとしていますが、この間、県は、周辺住民に対する対策はもとより、騒音の測定すらまともにやってこなかったのです。ひたすら、基地の方に顔を向け続けてきたのですから、この県の姿勢は、厳しく糾弾されなければなりません。
 以上のような、事故の危険や騒音の被害は、百里基地の増強によって、これからさらに増大することは間違いありません。
 ですから、いま大事なことは、一人でも多くの県民が、基地周辺住民の苦痛を県民共通の痛みとして受けとめ、被害を受けている人たちと一緒になって、「飛行減らせ、騒音なくせ」の声を大きく広げていくことではないでしょうか。

民間機の前に立ちはだかる「百里空域」 ここにも“軍事優先”による危険が

 私たちが見上げている空。そして、さらに東の海上上空。ここに広大な自衛隊専用の「百里空域」「自衛隊訓練空域」があることをご存じの方は少ないと思います。
 ましてや、この軍事空域が、民間機の空路を圧迫する危険な存在となっていることを−−、そのために、全運輸労組(航空管制官も加入している運輸省の労働組合)が、空路の安全を確保するために「百里空域の縮小・撤廃」を主張していることを知っている方は、なお少ないのではないでしょうか。
 そこで、「百里空域」がどのように民間機の障害となっているかを、全運輸労組が指摘している問題点に基づいて、明らかにしたいと思います。

 関東周辺の空は、毎日1000機もの航空機が飛び交っている全国一の過密な空域といわれています。この過密な空域に、米軍の「横田空域」と、自衛隊の「百里空域」という二つの広大な「軍事空域」があって、そのために民間機の空路が圧迫され、複雑な経路、危険なコースを余儀なくされているのです。
 ここでは、その中の「百里空域」にかかわる二つの問題点を取り上げて、その危険性を明らかにしたいと思います。
 まずその一つは、「百里空域」があるために、成田空港の離発着便が安全なコースをとることができずに、危険な状態におかれているという問題です。
南風のとき、成田空港を出発する便は、いったん進路を南へとることになっています。この出発機は、上昇しながら@のコースをとることになるのですが、長距離便は重量が重いので、旋回がどうしても外側(海の方へ)にふくらみます。その場合に、東南アジア方面からの到着機、Aのコースと交差してしまうのです。上昇中の出発機と降下中の到着機が交差するという、非常に難しい危険が生じるのです。
 この危険を解消するためには、到着機がBのコースをとることなのですが、そこには「百里空域」が立ちはだかっていて、それを不可能にしているのです。
 もう一つの問題は、「軍事空域」に圧迫された狭い空域で、民間機が競合させられているという危険です。
 「横田空域」と「百里空域」にはさまれた狭い空域には、成田のシベリア経由ヨーロッパ便の出発航空路と到着航空路。羽田から北方への出発航空路と到着航空路が設定されています。ここでの交通量は、1日約200機。一日200機もの成田と羽田の航空機が、上昇・下降しながら競合しているために「管制官の一瞬の判断ミスが、即、ニアミス・衝突につながる危険性を秘めている」といわれているのです。
 このように、二つの問題だけとってみても、「百里空域」がいかに民間機の安全にとって重大な障害となっているかが分かると思います。
 全運輸労組は、これからの成田や羽田での増便を考えたとき、「百里や横田の軍事空域の削減・撤廃なしには、関東空域の抜本的再編はあり得ない」と主張しています。空の安全を願うのは、全運輸労組だけではありません。乗客、乗員の願いでもあり、航空路の下に住む住民の安全にもかかわる問題です。
 茨城の空は、自衛隊の空ではありません。県民の空です。私たちも「この空をかえせ、百里空域を撤廃せよ」と、要求しようではありませんか。
 自衛隊は、昨年の9月末から10月にかけて、これまでの最大規模で、陸海空の統合演習を行っています(百里基地の部隊もほとんどが参加)。また今年に入って、1月26日から2月4日まで、日米共同統合指揮所演習を行いました。
 このように自衛隊は、軍拡と日米共同作戦体制強化への道を一路すすみ、日本の軍事費は、とうとうアメリカについで世界で第2位となりました。
 アメリカは、ソ連崩壊後も、軍事力で地域紛争に介入する戦略をとっています。在日米軍も、その戦略にそって再編強化されています。それを補完する共同作戦の軍隊として、自衛隊が増強され−−百里基地の増強がすすめられていることを、しっかり見す掘えながら“百里基地の増強やめよ”、“騒音なくせ”、“百里空域撤廃”、“民間共用化するな“などの運動と世論を広げていくことが、いま大事になっているのではないでしょうか。  

○ホームページ管理人より
 松原日出夫氏著「百里物語」の一部を著者の許可を得て転載するものです。
 データは1994年時点のもので、現状と合わなくなっているものもあり得ますが、「米軍訓練基地になったら、いま以上にひどくなる」という意味合いで転載します。お気づきの点は、どうぞメールでご知らせください。

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